ビジネスや教育の場で発表や議論の際に「先に結論を話そう」と教わることがあります。
「なぜ先に結論を話すのが良いのか」と問われた場合、皆さんはどのように答えるでしょうか。
一般的な回答として「結論が分かっていると聞き手が話を理解しやすいから」が挙げられそうです。
確かに、この説明には説得力があります。
それでは、なぜ「結論がわかっていると話が理解しやすい」のか。
「その後の説明が結論に結びつくと想定できるから」という回答ができそうですね。もう少し深掘りすると、「結論に結びつく想定がどう聞き手にプラスに働くか」や「前提条件があるのか」などが気になってきます。
本記事では、「先に結論を話す」ことのメリットを説明するために、次の2つの参考資料をご紹介します。
- (1)ブランスフォードとジョンソンの実験
- (2)『考える技術・書く技術』で解説されている考え方」
これらの資料を参考に、結論から話す理由を説明するためのヒントを探していきましょう。
(1) ブランスフォードとジョンソンの実験
1つ目にご紹介するのは「ブランスフォードとジョンソンの実験」です。
元論文は英語なので、情報を得る上では例えば『新版 心理学』[1]を読むことを推奨します。
この実験は、簡単に説明すると、「前から順番に読んでみていまいち何の話か分からない文章に対し、事前に何の話かを伝達されるとすぐさま意味が分かる」ことを示すために行われています(参考文献[1]を元に要約)。
どういうことなのか、具体例を見ながら理解を深めていきましょう。
具体例(実験を参考に作成した例)
例として、実験で用いられた文章を参考に、本実験を理解するための文章を準備しました。
実際に実験で使われた文章自体は資料([1])をご確認いただくか、「ブランスフォードとジョンソンの実験」を調べていただければ参考となる情報が見つけられると思います。
それでは本題です。次の文章は何について話しているでしょうか。
「涼しい時期が最も多くの人に好まれている傾向があるが、暑くても寒くても実施することができる。自分が望む成果を得るには、実行するタイミングが極めて重要である。間違ったタイミングで取り組んだ場合期待した成果が得られないどころか、目的の一部すら達成できない場合もある。食べ物を準備する場合がある。また、装飾を準備することがより大きな効果をもたらす場合もある。忙しい日常の中で人々の心に安らぎをもたらす瞬間である場合もあるとも言えるだろう。」
いかがでしょうか。単純に読みづらい文章かもしれません。言葉の順番の重要性を感じさせられます。
それでは答え合わせです。こちらの文章は「月見」を念頭に作成したものでした。
他のことにも該当したかもしれませんが、あくまで例ですのでその場合はそちらも正解とご理解ください。
いずれにせよ、正解を前提にして読み直してみると、文章の意味が明瞭になるのではないでしょうか。
「月見」を念頭に各文章の解釈の期待を整理しておくと
- 時期の話は9月頃(月自体は1年中見ることができる)
- 実行するタイミングは時間帯のこと
- 食べ物は月見団子、装飾は例えばススキなどが思い浮かぶ…
のように読んでいただければ、お伝えしたいことが伝わっていることになります。
ブランスフォードとジョンソンの実験から得られる見解
このように、ある状況で取られうる選択肢を限定できる事前知識のことを「スクリプト」と呼びます([1])。[1]の表現を引用すると、「ある特定の状況で行われるであろう一連の行動についての知識」のことです。
つまり、「はじめに結論を述べることは、ある状況で起こりうる要素や選択肢を限定できる事前知識を活用できる状態(スクリプトを活用できる状態)を作り出す効果がある」という説明ができます。
「人間は事前知識を使って情報を限定している」というだけで多くの場合納得が得られそうですが、心理学の教科書にあるような説明と具体的なサンプルとして、知っておくと役に立つ場面があるかもしれません。
(2)『考える技術・書く技術』で解説されている考え方
2つ目の参考情報はバーバラ・ミントの著作である『考える技術・書く技術』[2]からご紹介します。
『考える技術・書く技術』では、分かりやすい文章における論理構造や問題解決のフレームワークが解説・紹介されています。
特に、本書の1章(pp. 5-17)で、人間の情報処理の仕方とそのときの制約(人が頭の中で保持できる情報量の限界や情報をひとつずつしか伝えられないこと)が紹介された上で、自分が伝えたいことを相手が同じように認識できるようにするためにしなければならないことが説明されます。
言及されている中で重要な点を簡単に整理してご紹介すると、次のようになります。
(以下箇条書きはいずれも括弧内の記述を元に筆者要約)
- 自分が「見えて」いることを伝えるためには、相手が同じように「見てくれる」必要がある (p. 10)
- それらの事象は一度に一つずつしか伝えることができない (p. 10)
- 読み手や聞き手は、得られた情報をその度に関連づけ体系づけて理解しようとする (p. 12)
- 読み手が使える頭のエネルギーは限られている (p. 12)
- 読み手は言葉の意味の理解、考えの間の関連性の理解、全体像の理解にエネルギーが必要 (p. 13)
書籍中では読み手がトップダウンに考えを記憶すること、従ってトップダウンで書き手の考えが示されていれば,読み手はより容易に理解できるようになることに触れ(p. 13)、「最も分かりやすい文章とは,情報を矛盾なくトップダウン型で表現したものなのです」(p. 13より引用)と締めくくります。
これを私なりに改めて要約すると、「読み手はエネルギーに限りがある中で、1つずつしか情報が得られないにも関わらず、言葉自体・情報の関連性・全体像の理解をしないといけない状況に置かれている。そのため、読み手の負担が軽くできる構成、すなわちトップダウン型の構成で伝えるべきである」となるでしょうか。
『考える技術・書く技術』から得られる見解
1つ目に紹介した「ブランスフォードとジョンソンの実験」では既に持っている知識の活用がポイントでしたが、こちらの考え方は、事前の情報が必要なく、どんなときでも使えるのが特徴です。
つまり、「伝えたいメッセージ」と「メッセージを構成する根拠」を情報の受け手が再構成する順番を考慮し、必要な負荷を小さくすることが、トップダウンの論理構成を取る理由だといえます。
「結論から話すこと」と「トップダウン型」は完全には一致するとは限りませんが、結論から話すことで「後から来る情報はその結論の根拠となっているはずだ」という形で情報の関連付けの補助になっているため、聞き手・読み手の負荷を下げる役割を果たすことが期待できます。
本書は全体的に難易度が高く、全てを活用できるようになるのは難しい印象なのですが、1章だけでも読んでおくと、相手と自分の認識を合わせるために注意すべきことへの理解が深まり、大変有益だと思います。
総括
「結論が分かっていると聞き手が話を理解しやすい理由」について、「ブランスフォードとジョンソンの実験」と「『考える技術・書く技術』で解説されている考え方」をご紹介しました。
ここまでで得られた考え方を整理してみましょう。
1つ目に紹介した「ブランスフォードとジョンソンの実験」からは、情報の受け手が持っている事前の知識の活用が理解の助けになるという考え方を得ることができました。
2つ目に紹介した「『考える技術・書く技術』で解説されている考え方」からは、情報の受け手が与えられた情報を与えられるときの制約と理解のために行う処理と負荷を考慮し、なるべく負担を減らすことが理解の助けになるという考え方を得ることができました。
どちらも共通するのは、受け手の負荷を減らすことができることです。
事前の知識が活用できれば情報が持つ意味を限定することができますし、「結論が先に与えられ、後の話はその根拠だ」ということが明確である場合も、情報の繋がりの見通しが立ち、意味や関係性の理解がしやすくなるためです。
逆に両者の違いとしては、前者が事前の知識の活用をしているのに対し、後者はどんなときでも使える考え方であることです。
後者は「結論」という「事前の知識」を与えているという考え方もできますね。
「結論が分かっていると聞き手が話を理解しやすい理由」の説明
最後に改めて「結論が分かっていると聞き手が話を理解しやすい理由」の説明を整理しておきます。
一般的な説明としては、やはり『考える技術・書く技術』での解説を中心に考えるのが良さそうですので、以下の表現はいかがでしょうか。
「結論を前提にして話を聞くことができる場合、与えられた情報を理解する際に結論との結びつきを制約にすることができるので、意味や位置付けを理解するにあたっての可能性を限定することができ、結論が与えられていない場合と比べて理解の負荷を下げることができるから」
あるいは、
「先に与えられた結論を手がかりにして新たな情報の意味を考えることができるので、情報が持ちうる意味や位置付けの可能性を予想したり限定でき、聞き手の負荷を低減することができるため」
などでも良いでしょうか。
まとめ
今回は「先に結論を話す」ことのメリットを説明するための資料として、「ブランスフォードとジョンソンの実験」と「『考える技術・書く技術』で解説されている考え方」をご紹介しました。
どちらの考え方にしても、本質的には聞き手が情報を扱う際の前提条件を与えることによって、話の見通しを明瞭にし、思考の負荷を減らすことを可能にしているといえます。
特に、自分の意見を伝える場面では『考える技術・書く技術』で紹介されているように、結論に結びつく構成要素を順に伝える構成であれば、情報の関連性の理解が容易になるために聞き手が理解しやすい、ということは納得できる考え方なのではないでしょうか。
結論から話せとは良く言われるものの、その理由がいまいち腑に落ちていなかったり、誰かに質問された際に、本記事がお役に立てば嬉しく思います。
参考資料
[1] 無藤隆・森敏昭・遠藤由美,・玉瀬耕治 (著), 『心理学 新版』, 有斐閣, 2018, pp. 140-141.
[2] バーバラ・ミント(著), グロービス・マネジメント・インスティチュート(監修), 山崎康司(訳), 『考える技術・書く技術 ―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』, 1999, pp. 5-17.