チームや仲間内でのやり取りでは、共通認識ができていると非常に楽です。
相手と前提が共有できることで、動きの予測や一定の質の確保ができるためです。
組織内で役に立つ共通認識を確立することは、集団の生活や成果の質を高める効果に繋がるともいえます。
本記事では人間の認識に関する5つの項目をご紹介します。
これら5項目への知識は、他者の判断や思考の構造を見極める上で有用です。
組織の共通認識になれば、最適な行動や正確な他者理解の役に立つでしょう。
紹介するのは次の5つです。
- 「無知の知」・「知識の錯覚」
- 「限定合理性」
- 「バイアスの存在」
- 「心理的安全性」
- 「事実」と「価値」を分けること
この記事を目にするような方々は既にご存じのことも多いかと思いますが、本記事は、説明の手間の省略や口頭で伝わり切らない情報を伝える道具として準備しました。
「そういえばこれ前提だと思ってるけど全部聞いたことある?」とリンクを渡せば全て解決できる、そのような記事になっていれば幸いです。
ポイント要約
各項目の内容を筆者なりの表現で簡単にまとめておくと次のようになります。
- 「無知の知」・「知識の錯覚」
→ 自分が知らないものがある可能性を考慮すること - 「限定合理性」
→ 人間が判断するときに使える情報は有限であり、情報不足が判断の制約になること - 「バイアスの存在」
→ 人間の思考や判断には偏りがあること - 「心理的安全性」
→ 自分が何かの行動や発言をしても大丈夫だと思えることやその関係性 - 「事実」と「価値」を分けること
→ 物事には正誤が明確な「事実」と価値基準で決められる「価値」があるので区別すること
それでは一つずつ見ていきましょう。
1. 「無知の知」・「知識の錯覚」
まずお伝えしたいのは、「自分が知らないことがある可能性」を認識しておくと視野を広げやすいほか、他人の意見を聞き入れやすくなり、コミュニケーションが円滑になることです。
「無知の知」はソクラテスの有名な言葉なのでご存知の方も多いでしょうか。
一方で、「知識の錯覚」の方は聞き慣れない言葉かもしれません。
こちらは日本では2021年に出版されたスティーブン・スローマンとフィリップ・ファーンバックによる『知ってるつもり 無知の科学』[1]からご紹介します。「知識の錯覚」とは、
実際にはわずかな理解しか持ち合わせていないのに物事の仕組みを理解しているという錯覚
[1] スティーブン・スローマン・フィリップ・ファーンバック著, 土方奈美訳「知ってるつもり 無知の科学」2021, p. 19.
のことで、要は、分かってるつもりだけど実際は分かっていないことです。
(ご興味があれば是非書籍の方をお読みください。面白いと思います。)
「自分が分かっていない可能性」が頭の片隅にあるだけで謙虚になれ、人の話が受け入れやすくなる、
と考えるとこれは自分でも持ちたいですし、周りの人にも是非持って欲しい考え方です。
(これで失敗したり、逆に嫌な思いをさせられたことがある方も少なくはないのではないでしょうか…)
2. 限定合理性
2つ目にお伝えしたいのは「人間の合理性はその人が使える情報が制約になっている」ということです。
限定合理性はハーバード・A・サイモンの『新版 経営行動』[2]からご紹介します。
本書の第5章 「経営決定の心理学」の冒頭では、章全体を端的に説明した表現として次の説明があります。
一人の孤立した個人の行動が、多少なりとも高い合理性に達することは不可能である。
[2] ハーバード・A・サイモン(著) 二村 敏子・ 桑田 耕太郎, 高尾 義明, 西脇 暢子, 高柳 美香(訳), 『新版 経営行動』, ダイヤモンド社, 2009, p. 143.
要は、「人間の行動は合理的ではない」ということです。
その理由として本文中では、(1)「知識の不完全性」(p. 145)(2)「予測の困難性」(p. 148)(3)「行動の可能性の範囲」(pp. 148-149)がそれぞれ紹介されています。
『新版 経営行動』自体はかなり分厚い本なので読むハードルがあるかもしれません。
軽く分かればいいぐらいの場合は、例えば入山章栄氏の『世界標準の経営理論』の11章で分かりやすく解説されている箇所[3]があります。また、スティーブン・P・ロビンスの『組織行動のマネジメント』でも2ページほどで簡潔にまとめられています[4]。
どちらの書籍もおすすめです。
特に、『世界標準の経営理論』は本当におすすめの一冊なので是非一読をおすすめします。
3. バイアスの存在
3つ目は思考や判断におけるバイアス(偏り)の存在です。
人間には無意識のうちにしてしまう判断の偏りがあることと、どういったときバイアスがあるのかということを知っておくとより合理的な判断をする助けになります。
バイアスについては分量が多く、紹介している書籍やWebサイトがたくさんあるので、ここではいくつかの書籍・サイトの紹介にとどめ、詳細についてはそちらに譲りたいと思います。
ひとまず、「人間の持つ思い込みがたくさんある」ということを知っていただければ幸いです。
バイアスを扱っている代表的な書籍はダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』[5]でしょう。
この本一冊で人間の「認知的錯覚」[6]について様々な知見を得ることができます。
スティーブン・P・ロビンスの『組織行動のマネジメント』[7]でも「第6章 個人の意思決定」で意思決定を整理するにあたり様々なバイアスを整理しており、こちらも読みやすいです。
実務的な意味では、Google「re: Work」の『構造化されたプロセスと成功基準を策定する』のページ[8]で面接において確証バイアスの影響を考慮することが書かれており、バイアスを考慮した行動を考える参考になります。
4. 心理的安全性
4つ目は「心理的安全性」です。この言葉も高い頻度で耳にしていることと思います。
心理的安全性の説明には、Googleの「re: Work」で紹介されている『「効果的なチームとは何か」を知る』のページ[9]に良い記事があるのでそちらの記述を引用させていただくと次の通りです。
心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。
[9] Google re: Work – ガイド, https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/ (2022年11月6日最終閲覧)
何かあったときにそれを言っても大丈夫かどうか、隠した方が良いと判断しないような状態と言える関係性を作っていることとも言い換えられます。
「まずいことがあるけどいったら自分の評価が下がるかもしれない」とか「そのまま責任押し付けられて怒鳴られるな。やめとこう」などの状態がイメージしやすいでしょうか。
代表的な書籍はエイミー・C・エドモンソンの「恐れのない組織」[10]で、心理的安全性という言葉自体も合わせて大きな話題になっていたと記憶しています。
5. 「事実」と「価値」を分けること
最後は「事実」と「価値」を分けることです。
この話は限定合理性の話でも出てきたハーバード・A・サイモンの『経営行動』での言及が印象に残っているため、こちらをご紹介したいと思います。具体的には例えば第3章「意思決定における事実と価値」に記載があります[11]。
本節でまず強調したいのは、「事実的」要素と「価値的」要素、の区別自体が大事であるということです。
あることが客観的に正誤の評価が明確な「事実」なのか、何かの基準で良い・悪いとする「価値」なのかを区別することが明確な議論をする上で不可欠であり、建設的な議論をするためにも共通認識となっている必要があると考えるためです。
大学や大学院、あるいは職場などで同様の指導を受けたことがある方もおられるかもしれません。
事実と価値判断が混ざってしまっていると議論が混乱してしまいます。逆に整理されていると注目すべき箇所が明確になるので、実務上極めて有用な考え方かと思います。
本記事では、ある人の中での事実と価値への認識の重要性という点でご紹介することにした次第です。
まとめ
仕事や普段の暮らしの中で共通認識になっていてほしい人間の認識に関する5つの事柄を紹介しました。
最後に、改めてお伝えしたかった内容について冒頭で記述したまとめを再掲しておきます。
- 「無知の知」・「知識の錯覚」
→ 自分が知らないものがある可能性を考慮すること - 「限定合理性」
→ 人間が判断するときに使える情報は有限であり、情報不足が判断の制約になっていること - 「バイアスの存在」
→ 人間の思考や判断には偏りがあること - 「心理的安全性」
→ 自分が何かの行動や発言をしても大丈夫だと思えることやその関係性 - 「事実」と「価値」を分けること
→ 物事には正誤が明確な「事実」と価値基準で決められる「価値」があるので区別すること
冒頭にも書いた通り、おそらく自分が当たり前だと思っていることや前提としていることを改めて確認することは意外と手間だったりこんなこと言うのもな…と思ってしまうこともあるので、この記事が解決の一助になれば幸いです。
参考リンク・書籍
[1] スティーブン・スローマン・フィリップ・ファーンバック(著), 土方奈美(訳)「知ってるつもり 無知の科学』, 2021, p. 19.
[2] ハーバード・A・サイモン(著) 二村 敏子・ 桑田 耕太郎, 高尾 義明, 西脇 暢子, 高柳 美香(訳), 『新版 経営行動』, ダイヤモンド社, 2009, p. 143.
[3] 入山章栄 (著), 『世界標準の経営理論』, ダイヤモンド社, 2019, pp. 207 – 209.
[4] スティーブン・P・ロビンス(著), 高木晴夫(訳), 『【新版】 組織行動のマネジメント』, ダイヤモンド社, 2009, pp. 148 – 149.
[5] ダニエル・カーネマン(著), 村井章子(訳), 『ファスト&スロー』(上・下), 早川書房, 2014(文庫版).
[6] ダニエル・カーネマン(著), 村井章子(訳), 『ファスト&スロー』(上・下), 早川書房, 2014(文庫版), p. 337.
[7] スティーブン・P・ロビンス(著), 高木晴夫(訳), 『【新版】 組織行動のマネジメント』, ダイヤモンド社, 2009, pp. 150 – 155.
[8] Google re: work – ガイド, 『構造化されたプロセスと成功基準を策定する』, https://rework.withgoogle.com/jp/guides/unbiasing-use-structure-and-criteria#start-unbiasing-interviews, 2022年11月6日最終閲覧.
[9] Google re: work – ガイド, 『効果的なチームとは何か』を知る, https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/, 2022年11月6日最終閲覧.
[10] エイミー・C・エドモンソン(著), 野津智子(訳), 『恐れのない組織』, 英治出版, 2021.
[11] ハーバード・A・サイモン(著) 二村 敏子・ 桑田 耕太郎, 高尾 義明, 西脇 暢子, 高柳 美香(訳), 『新版 経営行動』, ダイヤモンド社, 2009, p. 100.